安全保障研究 − 資料

対イラク武力行使

１．米英による対イラク武力行使の正当性は？

米英がイラクに対して新たな戦争を開始したとらえている人が多いが、それは大いなる勘違いである。マスコミも「開戦」という言葉を使っているがこれも間違いである。

そもそも、1990年8月にイラクがクェートを侵略したことが発端である。このとき国連安全保障理事会は幾度もクェートからの撤退を促す決議を行ったがイラクがこれに従わないため、経済制裁を決定、最終的に国連加盟国によるクェートの主権回復を目的とした武力行使を容認する決議を行った。この決議に基づき、1991年1月17日、アメリカを中心とする多国籍軍がクェート解放戦争（湾岸戦争）を開始したのである。

多国籍軍はクェートを解放したのち、バグダッドへ侵攻することなく戦闘を停止。国連はイラク戦の停戦条件を決議（安保理決議687号）、イラクがこれを受諾したため、休戦が発効した。このとき承認された休戦の条件にイラクが保有する大量破壊兵器の廃棄と国連による現地査察があり、これが完全に実施されるまでは正式には「休戦」状態にあるのにすぎず、湾岸戦争は終結したわけではない。内容の見直しがされているとはいえ、対イラク経済制裁が継続されていることからもあきらかである。

休戦後、イラクは大量破壊兵器廃棄についての国連査察に非協力的な態度をとるばかりか、査察団に国外退去を強要するなど、休戦決議の不履行を重ね、湾岸戦争休戦から１２年を経ても、大量破壊兵器完全廃棄は確認されていない。こうしたイラクの態度を「非協力的」であると認定・非難し、誠実な対応を求めた決議が2002年11月の安保理決議1441号である。

こうした経緯をみれば、今回の米英を中心とした対イラク武力行使が湾岸戦争の継続戦であり、新たな戦争ではないことが明らかである。休戦協定を遵守していないのはイラクであり、遵守しないことで休戦状態に終止符を打ったのはイラクなのである。

　

また、武力行使反対論のなかにイラクの「罪なき人々」に犠牲がでることを理由としてあげているものがあるが、これも間違いではないか？大統領選挙に際して、国連査察に非協力的なフセイン大統領を支持しているのはイラク国民である。イラク国民が積極的にフセイン政権を支持するなら、その代償を払わなければならないのではないか？
もちろん、現在のイラクはフセインによる独裁・恐怖政治が行われているため、選挙の結果がイラク国民の本当の支持を示しているかもちろん疑わしいことは承知している。
しかし、もしイラク国民がフセイン政権を支持しないならば、反体制運動に参加しフセイン政権を打倒すべきなのだ。この過程ではもちろん多くの血が流されることになるだろうが。恐怖政治を理由にフセイン政権を戴き続けることは、消極的フセイン支持と見なされる。この場合もその代償を払わなければならない。

　

２．軍事バランス

イラクの軍事力　　　「ミリタリーバランス2002-2003」より

総兵力：現   役　約389,000　徴兵期間18-24ヶ月
　　　　　予備役　約650,000

【陸　軍】

兵員：約350,000（内　約100,000の再招集予備役含む）

軍団司令部                ：　7
戦車師団                   ：　3
自動車化歩兵師団　　  ：　3　 (注)
歩兵師団　　　　　　　　 ： 11　(注）
共和国防衛隊
　　戦車師団　　　　　　　：　3
　　機械化歩兵師団　　　：　1
　　歩兵師団　　　　　　　：　2
特別共和国防衛旅団　　：　4
コマンド旅団　　　　　　　：　5
特殊戦旅団　　　　　　　　：　2
陸軍航空
　航空団　　　　　　　　　　：　5（航空機×2,ヘリ飛行隊×21

（注）戦闘効率は共和国防衛隊の半分）

<装　備>　（注：全装備の半数はスペアパーツ不足）
MBT　　　　　2,600？（T-55/-62,PRC Type-59,T-72×700）
RECCE　　　　 400　 （BRDM-2,AML-60/-90,EE-9 Cascavel,EE-3 Jararaca）
AIFV　 　    1,200？ （BMP-2/-3）
APC　　　    1,800？ （BTR-50/-60/-152,OT-62,/-64,MTLB,YW-701,M-113A1/A2,EE-11 Urutu)
牽引砲 　    1,900？ (105mm:M-56,122mm:D-74,D-30,M-1938,130mm:M-46,Type-59-1,155mm:G-5,GHN-45,M-114)
自走砲 　       200　 （122mm:2S1,152mm:2S3,155mm:M-109A1/A2,AUF-1）
MRL　　       　200？ (107mm,122mm:BM-21,127mm:ASTROS II,132mm:BM-13/-16,400mm:Ababeel-100)
迫撃砲                   (81mm,120mm,160mm:M-1943,240mm)
SSM　　                  (FROG×50以上,Scudランチャー×6)
ATGM　　　　     　　（AT-3,AT-4,SS-11,Milan,HOT)
無反動砲　　     　　（73mm:SPG-9,82mm:B-10,107mm:B-11)
対戦車砲　　     　　（85mm,100mm）
ヘリコプター　164
　攻撃：Mi-25×12,SA-319×20,SA-316×10,SA-342×20
　支援：SA-330F×20,Bo-105×30,Mi-6×10,Mi-8×30,Mi-17×12


【海　軍】

兵員：約2,000

哨戒沿岸戦闘艦艇×6
　オーサ級PFM×1
　沿岸哨戒艇×5
機雷敷設艦艇×3
機雷対策艦艇×3

　

【空　軍】

兵員：約20,000

飛行時間：熟練90-120,初等20

爆撃機　     　：約　6    （H-6D,Tu-22）
対地攻撃機   ：約130  （Mig-23BN,Mirage F-1EQ5,Su-20,Su-22M×40,Su-24MK×2,Su-25×2）
戦闘機　　     ：約180  （F-7×18,Mig-21×40,Mig-23×50,Mig-25×12,Mirage F-1EQ×50,Mig-29×10)
偵察機　　     ：約　5   （Mig-25を含む）
給油機　     　：　　      （Il-76×2含む）
輸送機　　     ：
練習機　　     ：
UAV　　　      ：　     　（L-29改造型）

　

【防空軍】

兵員：約17,000

対空砲   ：約3,000 (23mm:ZSU-23-4 SP,37mm:M-1939,57mm:ZSU-57-2 SP含む,85mm,100mm,130mm)
SAM　    ：約 850（SA-2/-3/-6/-7/-8/-9/-13/-14/-16,Roland,Aspide)　　　　

　　　　　　　　　　　

【準軍隊】

治安部隊：約15,000
国境警備隊：約9,000
SADDAM'S FEDAYEEN：約18-20,000
AL QUDS 義勇軍